インタビュー・対談

Interviews / Dialogues

特別対談 vol.1
官と民が化学反応できるエリアは無限、
まさに宝の山のようなもの

 
 

しっかりと継続できる連携をつくるには
「善き前例」が必要

鷲見:確かに実装できない実証実験っていうのは本当に多いですね。実は、それって実証実験という名前を借りた対行政ビジネスなんですよね。そういう事例が多いからこそ、われわれはやはりB to Cで商品化が必要だと考えるわけです。
そうした気づきがあるからこそ、その企業や社員の方々の成長はもちろん、行政自体も面白い発想が生み出せるのかも知れませんね。

東:「商品」というキーワードが出ましたが、商品というと営利的なものというイメージが強くて、行政にはなじまないんじゃないかという意見もあります。でもわたしは、それは全く誤りだと思います。
「商品価値」というのはとても大切で、継続性があるから商品として成立するわけであり、商品化できたということは、そのサービスが持続的に提供できる段階に至ったということなんですね。これはプロトタイプじゃないんだというように。
なので、もっと商品化とかパッケージ化をめざすということを行政もしっかり考えた方がよいと思います。行政は税金によって事業を回しているため、商品化をしていくという概念がどうしても弱いと感じています。

以前、民間企業と組んだときも、企業にとってのプラスを意識できないから結局その事業は継続せず、1年か2年やってお互い疲れてきて終わってしまいました。行政側もちゃんと商品化を考えないと意味がないっていう視点が必要ですね。

鷲見:市民側の感覚からすると、政治や行政的な事業がビジネスの方に向かうとなんとなく悪者扱いされてしまいます。
様々な自治体の方々と官民連携ビジネスについて話をしていてもそういう感覚によく出会います。
でも我々を含め企業は、継続するためには、やはり多くの「利」を作らないといけない。

これから社会が良くなるようなものを作り出すため、そういう商品を作っているにもかかわらず、ビジネスだから駄目みたいな風潮は変えないといけないと思います。だからこそ「善き前例」を作っていくことが大切なんですね。
やはり官民連携ってそういった人々に対してや組織に成長を与える、大事なキーワードだと思うんですが、その点どのようにお考えでしょうか。

東:当然だと思います。
わたしは前職で民間にいましたからその点は理解しているつもりです。
ものごとには、考え方、捉え方、見え方、タイムスパンの違いなど、様々な違うものがある中で、それぞれの担当者がより良いものを作り出そうと、活発に意見を交わすのが大切です。その結果、お互いが刺激を受けるわけです。

最初は、お互い理解し合いにくい状態から始まって、それが徐々にわかり合っていくときっていうのはとても良い刺激になっていきますね。相手の考えも当たり前に取り込んでいけるように変化していくということがとても重要です。
四條畷市役所では、ここ数年ぐらい民間企業を経験してから市役所で働く人が増えています。おそらく他市に比べて割合としては多い。当然、それによる摩擦もあるんですが、摩擦は熱=エネルギーでもあります。それは乗り越えていかなければならないものだと思ってます。
ある意味、官民連携も同じ問題を抱えていますよね。

鷲見:そうですね。摩擦があっても違う世界の風を知ることは大切です。生活の中でも今までと違うものを知るからこそ、新しい発想が生まれて来ると思います。

違う立場同士が協働することはとても大事だし、時にはぶつかり合うということも重要だと思います。それで互いのことを知ることができます。
そういう意味では、官民連携はお互いを知り合うにはすごく重要な機会であり、成長に必要な過程だと思います。

もうひとつ、例えば企業が自治体と連携をし始めたとき、公的な仕事ということで、企業の評価が高くなるという事例があります。

社員の方々も、うちは社会のためになる商品を売ってる会社なんだと思えたり、また、自治体の中でもプレスリリースとかを見て、すごく良いことしてるよねって声が集まったりする。
もちろんそれは首長さんにとってもいい刺激になって、次の政策を作るための話になっていきます。
それもまた社会貢献であり、社会課題解決型にこうした事業が進化していくことなのかなと思いますね。

東:役所の武器ってたくさんあるんですよ。例えば、信頼。一般的には、やはり役所って信頼がある。だからこそ役所は丁寧にやらないと、と思います。
民間と連携すると、役所がどうしても丁寧になりすぎたり、及び腰になると思われたり、見えたりするのは、万が一、その信頼の部分を市民から失ってしまうとあらゆる政策に波及してしまうというのがあるからなんですね。
どんなことでも丁寧に対応してしまう感覚を、民間さんにもご理解いただきたいですね。
なんでこんなに時間がかかるのかとよく言われますが、関係者の合意を取るために重要な過程であることは、民間のみなさんにも理解していただかなくてはいけません。

鷲見:でも民間からするとそれは逆に、良い気づきや学びになっていると思うんですよ。
やはり「信用」とか「信頼」は大事にしないといけない。おまけにその信用や信頼を崩さないような動き方を自分たちもできないといけない。
そこは官民連携での行政側の成長とともに、民間側も成長するという意味で、必要な過程だと思います。

東:ただ、実は行政の最も大切な業務って、もちろん子育て支援とか教育とか目立ちやすい事業も大切ですが、税務課とか会計課とか市民課とか、日々の業務を支えている部分なんです。
そういう業務って、なかなか官民連携の入り口が見つけられないというのがありますが、本当はそれらの業務が一番大切なんです。
今後は官民連携の目指す未来に、我々が最も大事にしている基本的な業務に、民間の発想を入れていくと面白くなるんじゃないかと思います。

鷲見:そのためにも入り口としては少し派手なもの、呼び水となるような善き前例を作っていきたいですね。
他の国でも当たり前となっているような、ビジネスモデルであり、また政策モデルでもあるというものを作っていかないといけないんです。

 
 

四條畷市が関わる連携実例

四條畷市×株式会社F・O・インターナショナル

新生児家庭にベビー服などをプレゼント。自治体と連携して各家庭に届けることでCSRと子育て家庭の見守りを同時に実現

 
 

再現性を意識した
事業をつくるべき

鷲見:そこでお聞きしたいのは、四條畷市として、官民連携を進めていく企業がどう進んでいくべきなのか、そして期待感というのはありますか。

東:世の中に数ある官民連携を得意とする組織や個人の方って、どっちかにすごく偏り気味になっている気がします。
民間の知識に偏り営業主体になってしまい、正しい着手に至らないとか、逆に、官に偏りお願いベースばかりになってしまいがちとか。
そうなると上手く広がっていかないと思います。

そこの比重のバランスですかね。良いバランス感をもった企業が増えることは、すごく良いことだと思うので、そういった企業が活躍をされることが他にも良い影響を及ぼすんじゃないかなと思います。

鷲見:やはりその辺のバランスがないといけませんよね。
継続的な事業であり、それが政策になるようなもの。
他の自治体や企業が真似できるものを作らないといけないと思います。
そういう意味では先ほどの偏った考え方では、本当に求めるものができないと思ってます。

例えば四條畷市でやった事業が広く評価され、他の自治体から同様のプロジェクトをやりたいっていう要望がでてくること。そういう再現性は重要ですね。

東:はい。そういうのは大事ですね。
いろんな自治体に模倣されていって、世の中に広がっていくことが日本全体にとって望ましい。
そして、そういう再現性の高いアイデアをいくつか組み合わせることが、実はそのまちのオリジナルなモデルになって、さらにはまちの個性になる、そういうことが大切だと思っています。
個性を出して際立たせるのは大切なんですけど、積み重ねる施策に再現可能性がないと、日本中に広まるのが難しい。
そうなると意味がないことになりますね。

鷲見:やはり、再現性をかなり意識して作っていくっていうのが一番大事なことですね。

東:大きな目的があって、そのためにはなんらかの打ち手が必要なんですが、ただしその目的には一気にたどりつけないから今はこれをやるというような柔軟性がいります。それが見えてるか見えてないかが大きな差だと思います。
まさに実装できない実証実験がその最たるものですよね。描きたい大義や理想が常に意識できてるかどうかが肝だと思います。